米国の追加関税からはじまる株や為替などの投資への影響

米国と中国の貿易戦争から見る投資のヒント

2019年5月13日、米国が発表した中国への制裁関税第4弾で、携帯電話など約3000億ドル(約33兆円)分の同国製品に最大25%の関税を課す計画を、正式表明しました。

これにより、過去四半世紀に渡って世界中が中国依存してきたパーソナル・コンピュータとスマートフォンの製造が完全な標的となり、昨年お伝えしました通り、いよいよ次世代情報技術の覇権戦争があらわになってきました。

しかし、中国からの輸入比率が高い消費財は代替がきかないのは明らかで、日本や台湾の部品メーカーなど、影響は広範に及ぶことが予測されます。

では、米国はどのように動いてくるのでしょうか?

米国の思惑は、中国の輸出体制の根幹を揺さぶることで、ゴールは、中国政府に米国が持つ知的財産権を認めさせることにあるのではないでしょうか?

そうすれば、未来永劫、中国がいかなるハードウェアを製造しようとも、根幹となる「頭脳」は米国が握り、今後も情報社会を牛耳ることが可能で、中国を「世界の工場」のままにしておくことができるのです。

一方、中国は次の情報社会を制するために、米国に「頭脳」をいつまでも渡しておくわけにはいきません。

今週発表された第四弾制裁関税に対抗すべく、中国政府は600億ドル分の米国製品について関税率を最大25%に引き上げると表明していますが、それは表面的な対処にすぎないと言われています。

中国は、なんとしても「世界の工場」を脱し、米国の意向に左右されることがない大国になるためにも、「メイド・イン・中国の頭脳」を確保する必要があります。

現在、中国で生産されているiPhoneやiPadは、今後ベトナム工場に移される可能性が高く、また、コストも跳ね上がることが予測されます。

ただでさえ、スマートフォンバブルが弾け、消費財としても供給過多にあり、さらに、スマートフォンを凌駕する「次の製品」を生み出せてないことから、今後、情報産業全体のバブルが弾ける可能性も否めません。

この局面を「投資」としてどう見るかがとても面白いのではないでしょうか?バブルがはじける可能性があるのであれば株の「売り」から入れば膨大な利益を得る事が可能です。

ただ、このようなトランプ政権の行動は、2020年の秋の米国大統領選のための演出の一端の可能性もあります。

どちらにしろ、2020年秋の米国大統領選までは、米中の駆け引きに世界中が振り回されることになるではないでしょうか?

そしてここから数ヶ月後、さらなる進展がありました。

貿易戦争と言っても過言ではないアメリカと中国

2019年8月1日、米国トランプ大統領は、追加関税をほぼすべての中国製品に対象を広げる制裁「第4弾」を発動するとツイッターで明らかにしました。

米中貿易協議の進展が不十分として、「9月1日から残りの3,000億ドル(約32兆円)相当に10%の追加関税を課す」と表明しました。

さらに、習近平国家主席の対応を批判し、税率を25%超まで段階的に引き上げると、揺さぶりを掛けています。

トランプ大統領は、日本で開催されたG20の際の米中首脳会談で、対中関税政策を融和する姿勢を見せていましたが、およそ1ヶ月で考え方を変え、新たな強硬措置の実施を決めたことになります。

この第4弾には、スマートフォンやパーソナル・コンピュータが含まれるため、関連企業は迅速な対応を取らざるを得ません。

Appleは、この措置によりiPhoneの販売台数が600万台から800万台減少するとみられており、現在、中国にある生産拠点をインドやベトナムに移す可能性があると発表していますが、そのためには最低でも2年はかかるとみられています。

一方中国は、国有企業に対し米国産の農産物輸入を停止するよう要請した他、約10年ぶりの人民元安を容認し、追加関税分をフラットにしてしまおうとする事実上の対抗措置に出ました。

しかし2019年8月5日、ついに米国は中国を「為替操作国」に認定しました。

トランプ大統領はホワイトハウスで記者団に対し、「市場はいずれ史上最高の水準に到達するだろう。中国は米国にとっていかりのようなものだったからだ」と指摘。

「中国との不公正な通商合意は米国に大きな打撃を与えていた」と述べましたが、これは選挙前のポジショントークであることも加味しなければなりません。

今後、中国はレアアース通商交渉の切り札にする可能性を示唆する一方、最悪の場合、米国債の大量売却も視野に入れている可能性があります。

米国にとって最大の外国債権者である中国は、現在、約117兆円に上る中国の米国債保有残高を持ちます。

ですが、いまのように中国が報復関税を緩和するために元安を容認すれば、資本逃避の恐れがあり、報復として米国債を売って資本を別に移そうにも、世界はマイナス金利だらけで先がありません。

また、元安阻止のために金利を引き上げれば、国内の借金まみれ企業は雪崩を打って崩壊する可能性も高まります。

つまり、中国としても選択肢がない厳しい現実に直面しています。

元モルガン・スタンレー・アジア会長のスティーブン・ローチは、まだまだ中国は「豊富な弾薬」を持ち、トランプ米大統領よりも「長い時間枠で動いている」と、ブルームバーグで述べています。

短期的勝敗は決まっても、中長期的行方は、果たしてどちらになるのか、わかりません。

貿易戦争におけるモノづくりのゆくえ

このように、米中による関税を中心とした貿易戦争が過熱するなか、企業の中にはすでに生産拠点を中国から移す企業も出ています。

今回のトランプ大統領の措置は、中国ならず、米国に本社を置きながらも税金を回避するようなグローバル企業もターゲットにしていると見る向きもあります。

そして、中国の電子商取引大手アリババ・グループ・ホールディングの馬雲(ジャック・マー)会長は、投資家向け会合で、「米中貿易摩擦は20年続く可能性がある」との見解を示しました。

その理由は明らかで、企業が関税を回避するため、一度生産を他国に移転すると、そう簡単に中国に戻りません。

「世界の工場」は分断、解体され、より不安定な状況が想定できます。

この「脱中国」は、一見、より人件費の安い国へ工場が移動することだと一般には見なされていますが、「世界の工場」中国の次に来る「モノづくり」集積地は、無人になることです。

90年代にスニーカー工場を中国や東南アジアに作ったアディダスは、2016年にいち早くドイツにロボット工場を作り、生産拠点を移しました。

安い労働力を求めアジアに工場を展開してきたアディダスですが、24年ぶりにドイツ国内でスニーカーの生産を再開しました。

しかし、その工場には従業員の姿はなく、完全なロボットによる「次世代の工場」だったのです。

この「次世代の工場」の世界標準になろうとしていたのが、「中国製造2025」計画です。

「中国製造2025」は、中国政府(国務院)が主導する、2049年の中華人民共和国建国100周年までに「世界の製造大国」としての地位を築くことを目標に掲げたこの取り組みで、米国としては覇権維持のため、なんとしても「中国製造2025」を阻止したい意向が伺えます。

米国は表向き、中国に高関税をかけて貿易戦争に見せながら、この施策の本質は、「中国製造2025」に歯止めをかける側面が大変大きいと思われます。

つまり、いま起きていることは、ロボット覇権争いという見方もできます。

そのため、米国は高関税の次に、金融戦争を仕掛け、いかなる手を使ってもロボット覇権を中国に握らせない手段をとるはずです。

中国は半導体技術がないため、ただの組み立て工場になっているのが現状で、いまなら米国は勝てると思い込んでいると考えられます。

このように米中の貿易戦争が加熱する中、トランプ大統領は中国だけではなく、他国にも貿易戦争を仕掛けていきます。

続いてはメキシコについて見ていきたいと思います。

中国以外でも起こる、米国トランプ大統領による追加関税

中国への追加関税を表明した同時期の2019年5月末、米国トランプ大統領は、メキシコとの国境を越えて入国する不法移民があとを絶たないのはメキシコの対応が不十分なためだとして、2019年6月10日からメキシコから輸入されるすべての物品に5%の関税を上乗せすることを明らかにしました。

声明では、状況が改善されなければ毎月さらに5%ずつ上げ、最終的に25%まで上乗せするとしています。

この背景には、今年に入ってから先月までに不法入国で拘束された人が30万人以上に膨れ上がり、この数字は、去年の同じ時期の2倍まで急増しています。

その多くが中米ホンジュラス、グアテマラ、エルサルバドルから治安の悪化や貧困を理由にアメリカへの入国を試みる人たちですが、国境地帯では当局の対応がとても追いついていません。

このような現状がSNSで拡散してしまったため、さらに不法入国を試みる人たちが増え続けているのです。

トランプ大統領は声明で「メキシコが断固とした対応を取らなければ大きな代償を払うことになる」と述べ、対応を迫っています。

一方、メキシコ外務省の高官は「アメリカが関税の上乗せを行動に移せばメキシコ経済に破滅的であり、深刻な影響がある。メキシコは黙っておらず、強く対抗する」と述べて、トランプ政権が関税上乗せを実施すれば報復措置に踏み切る考えを示しました。

また、今回の関税上乗せ措置のもうひとつの背景には、米国の製造業の大不振があります。

2019年6月3日のブルームバーグによれば、米供給管理協会(ISM)が発表した5月の製造業総合景況指数は、市場の予想外に低下し、2016年10月以来の低水準となったと報じています。

NAFTA以降、「米国の工場」として発展きたメキシコですが、ここには米国市場に製品を投入するため、人件費の安いメキシコに製造拠点を置いた日本企業も1200社含まれており、今後、関税という目に見えない「壁」が立てば、影響は世界的に波及するものと思われます。

現在、メキシコで生産して、アメリカに輸出される自動車の関税は、一定の基準を満たせばゼロになりますが、今後25%まで上がることを視野に入れる必要が生じています。

それにともない、メキシコ・ペソは大暴落中でメキシコが耐えられるかどうかも、今後の焦点になると思われます。

このような措置は、大統領選へ向けたデモンストレーションだと見る向きもありますが、トランプ大統領はツイッターで、今回の警告は「ハッタリではない」と言明。

面目を保つために安易に合意をまとめることには一切関心がないと明言しています。

はたしてこのような貿易戦争が起こる中で日本の立場から投資のヒントを得るにはどのように考えていけばよいのでしょうか?

新たな貿易協定交渉から見る投資局面

米国時間の2019年4月15日午後、日米両政府は新たな貿易協定交渉の初会合を、米国ワシントンで開催しました。

茂木敏充経済再生担当相とライトハイザー米通商代表部(USTR)代表が出席し、農産品など物品の関税撤廃・削減に加え、サービス分野をどこまで交渉範囲に含めるかを協議しました。

2018年に日本政府は、「米国とは物品に関する交渉のみ行うことで合意した」とメディア向けに発表していましたが、事実は、物品以外にも金融、知財、医薬を含む22分野で交渉すると、米国からの発表で明らかになりました。

これはつまり、決して報道されることがない日米官僚級の対話のなかで、もう詳細まで決まっているはずではないでしょうか?

あとは、どのように本件をまとめるかが焦点になってくると思われます。

そこで、日本政府は「日米物品貿易協定」=「TAG」という言葉を、マスコミを通じて広めようとしてきました。

しかし、2018年9月に日米首脳が合意した新しい日米貿易協定の実態は、「自由貿易協定」=「FTA」に他なりません。

内容によっては、「TPP」をはるかに超える市場開放となるのは、明らかです。

またに米国からの「事実上の命令書」に、為替については、日本が操作しないことを「確かにする」と書かれており、米国は「アベノミクス」を、明確に「為替操作」と考えているのが伺えます。

日米間で合意していないと思えるのは、この日本の為替操作を辞めるタイミングだけだと、編集部としては考えています。

また、日銀総裁が「異次元緩和」の一環として実施している指数連動型上場投資信託(ETF)の購入について、「株価安定のために実施している」と言い間違え、直ちに「物価目標の実現のため」として訂正する一幕がありました。

日銀総裁が、自ら株価操縦を肯定する前代未聞の出来事が起きましたが、国内メディアは、決して騒ぎ立てることはありません。

数字を見れば明らかですが、世界中の中央銀行が金利を引き締めつつ景気拡大を遂げているなか、日本だけが金融緩和しながら消費減退し、成長もありません。

企業であれば、業績悪化すれば経営陣の退任が求められますが、官僚はその限りではありません。

残す交渉は、論理的に考え、異次元の緩和を辞める(株価が暴落する)タイミングの交渉だけとなる可能性が高いです。

この局面を投資としてどう見るかが、あなたの金融知識にかかっています。

株でいえば、「買い」から入るのか「売り」から入るのかの見極めも普段、コツコツと蓄積した知識があれば、ほぼリスクなく判断できると思います。

同じ出来事でも「チャンス」ととらえるか「リスク」と捉えるかで結果は大きく変わってきます。